『MONSTERZ』に見る、映画の恐怖体験と魅力
先日、地元のシネコンで友人と映画『MONSTERZ』を観てきました。
TOHOシネマズ®マガジン の上映作品紹介では
❝ひと目見るだけで他人を操る能力を持つ男と、その力が唯一通用しない驚異的な回復力を持った男の対決を描いたサスペンス・アクション❞と書かれています。
実際に鑑賞してみると、目で人を操る名前のわからない殺人鬼(藤原竜也)、対してただの不運な男と思いきや、異常な回復力で死ねない正義漢・柊一(山田孝之)のバトルが中心なのですが~
窓から人が落ちる 歩道橋から赤ん坊が落ちる
刑事が撃ち殺し合う
終盤にいたっては、劇場内の観客がどんどん2階席から落ちて頭から血を流すという
ジャンル的にはサスペンスというより、完全にホラーな印象。
純粋無垢なヒロイン・叶絵(石原さとみ)を加え、同時に男同士の憎しみと友情、三者三様の家族に対する関係と思いを描いています。
この主要な登場人物の三人、実は両親のどちらか、あるいは両方と死別しています。
人はみな、「見えない」悩みや心の闇を抱えているのかもしれません。
では人が転落したり、喧嘩をしたり、殺し合ったり、死ぬから怖いのかというと、それだけではない。(ヤクザ映画との比較)
『MONSTERZ』の怖さのカギを握るのは、「日常性」です。東京都内および郊外の、よく目にするような道、古い建物、ホール。
日常の風景の中で、どんどん殺人が行われるために、観客は自分の日常と恐怖体験を重ね、引き込まれます。終盤、劇場で観客が落ちていくシーンは映画館とダブり、この映画は劇場で観る人とそうでない人とで鑑賞体験が違います。劇場から外の世界に戻ると、日常にはあんな恐ろしいことがなくてよかったと思うのではないでしょうか?
もう一つのポイントは、「非日常性」、「フィクション」の要素。
まず名前のわからない男は、目を見る者を操る「超能力者」であり、さらにその力で人を操るときには、目が「青く光る」のです。そんな人、日常にいませんよね?
『MONSTERZ』の宣伝や作品紹介に魅かれて映画を観に来た人は、この「非日常性」の部分に魅かれて来たはずです。
ところが、映画の中で超能力者を取り巻くのは、常に日常的な風景です。さらに主人公が「見た目は特別でない」のに、見えない力=特異的な回復力を持っています。これによって、超能力=日常的でないものが日常的なものに近づき、観客は見えない力が自分にもあるかもしれないと錯覚し、登場人物に感情移入します。
時に人はないものねだりをして、「見えない力」に憧れるもの。映画を観て、自分にも超能力があるのでは? もしあったら? と想像してしまいます
『MONSTERZ』の元ネタと言われている映画『キャビン』や『死霊のはらわた』、『キューブ』、また同じホラーでも『キャリー(リメイク版)』と比較してみると、構造や演出の違い、共通点が浮かび上がって面白そうです。
ちなみに心理学ではドキドキ、ハラハラ、不安感、暗い場所は、デートで親密さを上げる効果があるとされていますが、映画館は会話ができないので、気分を盛り上げるのには不向きなんです。ただし、会話が苦手な人は、ドキドキするような恋愛映画で気分を盛り上げるのもいいですよ! cf.齋藤勇『本当の「私」がわかる 自分の心理学』
by boushiseijin | 2014-06-16 14:34 | from tokio